冬の田んぼに育つもの


 いよいよ秋から冬へと季節は移ろいますが、「麦秋」という季節をご存じでしょうか?「秋」という字が入っていますが、実は初夏のことで、麦の〝実りの季節〟という意味です。稲作を終えた水田には、稲以外の作物が育てられることもしばしばです。水田で1年に複数の作物、稲に加え小麦、大麦、ライ麦、なたね、ばれいしょ、かぶ、たまねぎ、白菜、高菜、きゅうり、えんどうまめ、そらまめ、なたまめ、れんげ草などの裏作を栽培することを水田二毛作(にもうさく)といいます。

 水田二毛作の歴史をひもとくと、13世紀にはじまって近世には各地に普及していったようです。わが国の多くの地域は恵まれた気候条件と、一年中作物を育てられるだけの土壌水分があります。特に熱帯のイネ類と寒帯のムギ類という二大穀物による二毛作は、世界的にもまれな例なのです。今は少なくなりましたが、かつてはどの地域でも盛んに行われていたこの米と麦の二毛作は、奇跡的な条件があってはじめて成り立つのです。

 異なった作物を続けて同じ土壌で育てることを輪作といいます。二毛作も輪作のひとつのパターンです。基本的に輪作は異なる作物を植えることにより地力の維持をはかり、安定的に作物を育てることを目的とします。そのためには、地力維持に必要な有機物を多く生産する作物を基幹とするのが望ましいのですが、地力を維持する還元可能有機物を多く生産するイネ科の植物はまさにこの条件に当てはまります。また、イネ科の植物は他の植物と共通の害虫が少ない点でも好都合です。
 輪作の組み合わせは、必要とする養分が異なること、跡地に残す養分が異なること、根を張る場所の深さが異なることなどを勘案して検討します。
 稲は有機物を生産する一方で、生育には窒素を必要とします。マメ科植物は、稲の残した有機物を消費しながら根に付着する根粒菌により空気中の窒素を土壌に固定して残すので、稲と好相性です。田んぼにマメ科のれんげ草を植えるのは窒素を固定するためで、その窒素を利用して稲は育ちます。ちなみに、昔は育てたれんげ草を牛馬の飼料として活用していました。また、稲は野菜を育てたあとに土壌に残された過剰な養分を吸収利用することから、この両者もマッチしていると言えるでしょう。根菜類なども、根の張りが深いので生産や収穫作業により土壌を深く耕すのと同じ効果があることから、稲作にとって有利な条件を与えます。

 淡路島の名産といえばたまねぎですが、これも主に水田の裏作で作られています。たまねぎが淡路島で育てられるようになったのは大正時代で、今ではすっかり定着しています。たまねぎを植えることにより土壌を深く耕すなど稲の生育にも好影響があり、たまねぎも稲の残した有機物により育ちます。私たちにはおいしいごはんを。たまねぎには有機物を。稲とは実に奥深い作物なのです。


参考文献
農林水産省農林水産技術会議事務局編『昭和農業技術発達史 第2巻 水田作編』社団法人農山漁村文化協会
栗原浩教授定年退官記念出版会『耕地利用と作付体系』大明堂
桜井豊『農業生産力論・水田酪農論』筑波書房
五色町史編纂委員会編『五色町史』五色町役場


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Posted by ゴーゴーご組 at 2008年11月23日 00:00 │Comments(13)TrackBack(0)11月の授業

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◆この記事へのコメント

本当に勉強になりました。
ありがとうございます。

お米の「素晴らしさ」「すごさ」を改めて知りました。
日本の田んぼは【打ち出の小づち】お米は【田から物=宝物】だと言い続けてきた私にとってうれしいお話です。
やっぱり田んぼと稲は日本の宝物なのですね。
Posted by 田から物田から物 at 2008年11月23日 07:46
二毛作の目的がはっきりわかりました。
単に冬にも畑を作っているのではなく、来年の稲作の準備だったのですね。
2種類の違う野菜の特徴を掴んでの二毛作は美味しいご飯を食べる為だった事がよくわかりました。
Posted by いけやんいけやん at 2008年11月23日 07:48
淡路島のたまねぎは水田の裏作だったんですね。
Posted by モッサンモッサン at 2008年11月23日 08:13
雪や雨が多い地域では、冬に麦を育てるのも大変なようですが、「米と麦の二毛作は、奇跡的な条件があってはじめて成り立つ」との意味の深さは良く理解できました。
Posted by フータロウフータロウ at 2008年11月23日 08:30
子供の頃、れんげ草は田んぼに勝手に生えてくるものだと思ってましたが、稲を育てるために農家の人が植えているのだと知って、田んぼに入ってれんげ草を取るのが申し訳なく思ったことがありました。でもやっぱり入って取っていましたが・・・。
Posted by もこもこもこもこ at 2008年11月23日 08:53
1枚の田から、1年中こうした食物が栽培できる、というのはとても素晴らしいことです。
こうした稲作を中心とした農業の素晴らしさは、私たちの大切な食料を供給してくれているのですね。
Posted by koyoi-harukoyoi-haru at 2008年11月29日 23:20
昔の人の知恵には驚かされます。
Posted by モッサンモッサン at 2008年12月05日 19:53
稲を刈り取ったあとは、ただ休んでいるだけの田んぼかと思っていましたが、こうやってみると、稲が育ってないときも土地を肥やして活動する田んぼだったのですね。
Posted by もこもこもこもこ at 2008年12月05日 22:28
 熱帯の米と寒帯の麦の二毛作……には、私もちょっと胸を打たれるところがありました。
 南但馬でも、昭和30年代の前半くらいまでは大麦を裏作にしていて、起こした田んぼに稲株拾いに行った記憶がかすかにあります。押し麦を混ぜて食べるようなごはんが哀れだったのか、親父は工場勤めに出るようになり、やがて誰も麦など作らなくなりました。
 帰郷してから二年だけ小麦を作ったことがあります。雪や雨が多いと紅カビが怖くて出荷しにくいのと、自家用にも粉にするのが大変、できたうどんもうまくないでやめてしまいましたが、田植えの遅い黒米や赤米と組み合わせてみようかなという気になりました。あげひばりの歌を聞きながら麦畑で昼寝したいですね。
Posted by 雄町雄町 at 2008年12月08日 22:12
地力を維持する為の輪作だったのですね。
田んぼが畑になっている時も次年の準備に入っているなんて、先人の知恵の素晴らしさが感じられます。
Posted by いけやんいけやん at 2008年12月17日 07:18
最近の食料事情を考えると、もう少し田んぼの利用方法を有効に考えて活用することが必要なのかもしれませんね。
Posted by もこもこもこもこ at 2008年12月17日 11:26
麦秋、きれいなひびきの言葉ですね。
Posted by モッサンモッサン at 2008年12月17日 20:54
米と他の作物とで、田んぼも食卓も潤うのですね。
Posted by 金魚金魚 at 2008年12月25日 13:24
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